自律神経失調症ってなんですか?
交感神経と副交感神経の働きはよくシーソーの動きで説明されます。
「交感神経がたかまれば副交感神経が休む。」
「副交感神経がたかまれば交感神経が休む。」
確かにその通りです。
しかし、多くの人にとっては意味のある説明とはいえません。この考え方ですむなら、交感神経がたかまりすぎた時には、深呼吸して気持ちを落ち着けるだけで体の問題は解決するはずです。ところが、自律神経失調症などというよくわからない体の不調で悩む人が世の中にはたくさんいます。
シーソーの動きでは自律神経の働きをうまく説明できない事があります
深呼吸やリラックスする事で自律神経のバランスがとれるのは健康な人だからです。
しかし、深呼吸したって、リラックスしたって、ストレスの解消をしたって、ほかの様々な方法を試しても自律神経のバランスが整わず、不調が改善せずに困っているのではないでしょうか?自律神経失調症の原因はもう少し違うところにあります。
自律神経失調症をシーソーで例えるなら、
「シーソーの両端にのった子供が元気に遊ぶことができないような虚弱な子供だったら?」
「シーソーを動かす支点がさびついていてうまく動かなかったら?」
という状態です。
これでは、シーソーはうまく動きませんし、下手をすると乗っている子供が怪我をしてしまいます。これが自律神経失調症というものです。
自律神経の働きと自律神経失調症について
自律神経を一言で説明するなら、自分でコントロールできない神経の事です。
例えば、
「しばらくの間、目を閉じてください。」
というと誰にでもできます。
目の動きは自分の意思でコントロールできるからです。しかし、
「心臓を5秒ほどとめてください。」
「食べたものを消化吸収することをやめてください。」
といっても、止められる人は誰もいません。心臓や胃腸は自律神経の働きで動いているからです。
心臓の動きは自分でコントロールできません
自律神経というのは私達が生きていくために必要な体の働きをコントロールしています。
血液を流して、食べた物を消化吸収して、お酒を飲めばアルコールを分解してくれ、栄養を元に細胞をつくって、汗をかいて、不要になった物を排泄して、酸素が不足すれば呼吸の回数を増やしますし、寒さを感じれば体をふるわせて体温をあげます。
私達が生きていくための基本的な体の働きは全て自律神経がおこなっています。
言い方を変えると、自律神経の働きが悪いということは、生きる力が弱くなっているということになります。
また、自律神経の働きで忘れがちになっているのは、
「病気や怪我をしたときに体を健康な状態に戻す。」
という事です。
体の異常を元の正常な状態にもどすのは自律神経の働きです。
転んで膝を擦りむいたり、骨を折ったり、病気になった時に、自律神経は体の細胞を活性化させて、組織を修復し、菌やウイルスを退治してくれます。つまり、自律神経の働きが悪いということは健康な状態に戻る働きが失われているという事です。
インターネットや本で自律神経のことを調べれば、交感神経と副交感神経があってうんぬんかんぬんと、通り一遍の説明はすぐにみつかるでしょう。
じゃあ、具体的に自律神経を整えるには?というと、
- 深呼吸して息を整える
- リラックス
- 適度な運動をする
- 良質な栄養を摂取する
- 半身浴をする
- ストレスを解消する
- 物事を前向きに考える
などなど、ほかにも様々な方法がみつかるはずです。
しかし、多くの人にとってこのようなノウハウや情報は無意味ではなかったでしょうか?なぜなら、自律神経の働きが悪いということは、
- 深呼吸ができない
- リラックスができない
- 適切な運動ができない
- 栄養がうまく吸収できない
- ストレスを解消できない
- 物事を前向きに考えられない
という状態だからです。
深呼吸しているつもり、リラックスしているつもり、体にいい栄養をしっかり摂っているつもり、プラス思考になっているつもりになって、なかなか元気にならない、不調や病気が治らないと嘆いてしまっているわけです。
自律神経の働きが悪いと当たり前のことができなくなります。
自律神経失調症が解決しない本当の理由
この項では、ストレスと自律神経の働きについて説明します。
ストレスが原因で自律神経失調症になるという考え方には大きな問題があります。自律神経の働きが悪くなっていると思っているほとんどの人は、
「会社(学校)でのストレスがきつくて自律神経の働きが悪くなっている。」
と考えています。しかし、このような考え方をしてしまうと自律神経の働きを整えることができなくなります。
その理由を説明するために、当院へ相談のあった2通りのケースを紹介しましょう。
1つ目のケースは、50代の男性サラリーマンの方です。
結婚して子供が二人いる方です。控えめで前にでるようなタイプではなく、休みの日には子供とキャッチボールをするような普通の家庭で幸せに暮らしていました。この方がどうも体の調子がおかしいということで病院で健康診断をしてみましたが、特に問題はありませんので、
「ストレスが原因でしょう。」
と言われました。
しかし、この説明に本人はしっくりきませんでした。なぜなら、家庭は円満でしたし、職場でのストレスが全くないという訳ではないけれど、体の調子が悪くなるほどのストレスがあるとは思えなかったからです。体には問題がないということで、しばらく様子をみるという事になりましたが、月日が経つにつれ、耳鳴りがなるようになり、疲れているのに横になっても眠ることができなくなってしまいました。それでも、やはり体には問題がみつからないということで、ストレスが原因だという判断だったそうです。しかし、日々それほど辛い思いをしているとはやはり思えなかったそうです。そして、ついには出勤することもままならなくなり、このままでは駄目だと当院に相談にこられました。
自律神経の働きが悪いと疲れているのに眠れなくなったりします
もう1つのケースは、40代の女性です。
パートで働いている主婦の方ですが、何件かの専門家に見てもらったのだけど元気にはなれなかったそうです。当院にこられたときは耳鳴り、難聴、腰痛、不眠、そして背中が常に痛いとひどい状態でした。そして、この方もどこへ相談にいってもストレスが原因だと言われたいたそうです。どの専門家でもそういうものだから、ついには本人も完全にその気になってしまいます。
「職場でのストレスがきつくて、それが原因なんです。」
最初に当院にこられたときにはそういってました。
それに対して、私は、
「じゃあ、仕事辞めますか?」
と答えました。
職場や学校でのストレスが自律神経失調症の原因なのでしたら3年ほど休んでみてもいいでしょう。
自然があふれるのどかな場所で3年ほどゆったり過ごしていれば自律神経の働きは整って元気で健康になることでしょう。しかし、そんなことを現実に実行できる人などほとんどいないのではないでしょうか。
また、仮に3年ぐらい休養して元気になったとします。
会社勤めや学業を再開したらどうなるでしょうか?心配りのできる素晴らしい人達ばかりで、皆がいつもニコニコ明るく元気に過ごせ、嫌な事がいっさい起こらない素晴らしい職場や学校が存在していれば何も問題はおこらないでしょうし、再発することもないことでしょう。
ここまで来ると私が言いたいことがわかってくるでしょうか?
「ストレスというのは私たちが生きて生活している間は絶対になくならない。」
という事です。
仕事や学校を辞めるなどという事が簡単にできるわけがありません。主人がストレスの種なんていう主婦の方もいますが、それだと離婚するしか元気になる方法がなくなってしまいます。原因を放置したまま、結果だけをかえようなどという都合のよいことは絶対にできません。つまり、自律神経失調症の原因はストレスであるとしてしまうと、問題を解決することが無理になります。
ストレスが自律神経の働きに影響するのは間違いありません。
ひどいショックを受けて立ち直るのに時間のかかることもあるでしょう。しかし、それでも自律神経失調症の原因をストレスにしてしまうと解消することができなくなってしまいます。これは自律神経失調症を解決する上でとても大切なポイントです。
さて、先に紹介した2人の方は今では元気になって生活しておられます。
以前より精力的に仕事に取り組むようになり充実した生活ができるようになったそうです。仕事を辞めたわけはありません。職場の人や環境がかわったわけでもなく、効果的なストレス解消方法を見つけたわけでもありません。ストレスが原因で自律神経の働きが悪くなっていたのではなかったからです。
この方たちが取り組んだのは、
「自律神経の働きをたかめる。」
という事です。
前者の方の場合は、単純に自律神経の働きが悪くなっていました。
自律神経の働きが悪いという事は生きる元気がなくなっている状態というのは先に説明したとおりです。そして、その主な原因は生活習慣にありました。ですから整体で自律神経の働きを整えつつ生活習慣をあらためることにしました。当院にこられる前にほかの専門家で安定剤と睡眠導入剤を日常的に服用していたのでそれを辞めるのに3ヶ月程度、問題なく仕事にいけるようになるまでには更に2ヶ月程度かかりました。その後も定期的に整体を受けにこられて1年後にはすっかり元気になっておられます。この方のケースは非常にシンプルなものと言えるでしょう。ストレスなど全く関係なく、ただ単に生活習慣に問題があっただけです。
もう一人の方も同様に自律神経の働きが悪くなっていました。
しかし、ちょっと違うのは、
「ストレスのせいで自律神経の働きが悪くなるのではなく、自律神経の働きが悪くなっているのでストレスに耐えられない状態になっていた。」
という事です。
ほとんどの人は、ここを逆にとらえてしまうからうまく解決できないのです。
繰り返しになりますが、人間は生きている限りストレスと無縁ではいられません。ですから、ストレスを自律神経失調症の原因にしていまうと絶対に解決できなくなってしまいます。ストレスに耐えられる体を作ってゆく事が根本的な解決になるのです。
ストレスっていったい何なのか?
実は、私自身もストレスで参っている時期がありました。
私にも非常に辛い時期があったというと、普段の私を知る人は嘘だと思うかもしれません。ほとんどの方は私の事を、いつもふてぶてしく言いたいことを言っている人間という印象のをもっているようです。しかし、その頃には、まともに食事もできず、ほとんど眠ることもできなくなっていました。
そんな時に、ある勉強会の集まりでストレスチェックなる試薬を試す機会がありました。
棒なようなものを口にくわえて唾液をつけることで、ストレス度合いをチェックするというものでした。唾液の成分でストレスの度合いを計測しようというものですが、非常に高額なものだといっていたように思いますから、医薬品として扱われているものではないのかもしません。この時の結果は、『非常に強いストレスを受けている状態』というものでした。
お医者さんでこのようなものは見たことがありません。
ストレスのことを重視する風潮が世の中にあります。それなら、もっとこのような物を利用してどの程度のストレスを受けて、それが体にどのような影響を与えているのかともっと掘り下げて考えなくてはいけないのではないかと私は思います。ところが、当院にこられたほとんどの人は、
「検査で異常が見つからなかったからストレスが原因。」
というような安易な発想しかしていません。
あなたはストレスというものが何かということについて説明ができるでしょうか?
ほとんどの人が、ただなんとなく嫌な事や辛い事というぐらいに考えているようです。以前にみたNHKのテレビ番組では、脳科学の視点から、
「過去のうまくいかなかった事や嫌なことを思い出すときに起こる脳の反応」
と、説明をしていました。
この時は、
「ふーん、そんなものか」
という程度に捕らえていましたが、その後また違うテレビ番組を見た時に納得できました。
そのテレビ番組では交通事故で脳に障害が残って過去を思い出すことができない女性のドキュメンタリーでした。買い物に家から100mほどでかけたら迷子で家に帰れない、料理をしていてお鍋のふたをコンロの横に置いたら、それをどこにおいたかを忘れてしまっていました。
ただ、この女性は印象的でとても魅力的ににみえました。
なぜなら、常にニコニコと最高の微笑みを浮かべていたからです。道に迷っている時も、キッチンで煮物を作っている時に鍋の蓋を探している時も、過去の事を思い出せないという障害が残っている自分の事をカメラに向かって話している時にもです。そして、買い物で道に迷ったことも、鍋の蓋をどこにおいたかを忘れたかも、自分が何を話したかもまたすべて思い出せなくなります。
「ストレスがないというのはこのような状態か。」
と私には思えました。
いつも笑顔で、本人はとても幸せに暮らしているのでしょう。しかし、あなたはこのようになることを望むでしょうか?
「ストレスを感じる時に人間は創意や工夫をしはじめます。」
「ストレスを感じた時に人間の心に向上心が生まれます。」
「ストレスを感じた時に人間は他人の事を理解できるようになる。」
私はストレスというものは人間らしさの根源にあるものだと考えています。
確かに、ストレスがなければずっとニコニコと笑っていられます。しかし、ストレスというものは過去の経験や思い出と常にワンセットです。
これは数年前にみた2つのテレビ番組からヒントを得たストレスに対しての私の解釈です。
ストレスについては様々な研究がされていますから、いまでは違う考え方にかわっているかもしれませんが、私のストレスに対しての考え方は変わっていません。
そして、繰り返し述べていますが、ストレスが無くなることなどありません。
辛いことや嫌なことが全く起こらない人生など絶対にありません。こういう当たり前の事をふまえて
「ストレスとはいったいなんなのか?」
ということを考えなおしてみてはいかがでしょうか。
なお、整体では強いストレスが原因で自律神経のバランスが乱れているかどうは背骨の状態で確認しています。判別はそれほど難しいものではありませんので、ストレスが原因かどうかはすぐにわかります。
「ストレスが原因で・・・。」
と言っている人たちのほとんどにストレスが原因で起こる背骨の異常はみつけることができないことも付け加えておきます。
自律神経失調症の整体
繰り返しになりますが、強いストレスが原因で自律神経の働き悪くなることは確かにあります。
しかし、これまで述べてきたとおりストレスを原因としてしまうのことで解決することができなくなってしまいます。ですから、基本的な考え方は、
「ストレスに耐えられる強い体を作る。」
という事です。
そのためには、自律神経の働きを高めることで、体の細胞1つ1つを強く強靭なものにしてゆきます。当然、内臓の働きも高まり体はどんどん元気に健康になってゆきます。
自律神経の働きを高めてストレスに強い体を作る
もちろん、自律神経の働きが悪くなる原因はストレスだけではありません。
生活習慣、仕事や学業での疲労や、運動やスポーツでの怪我が原因であることも少なくありません。
人に個性があるように自律神経の働き方にも個性があります。
暑さに強い人、寒さに強い人。辛い物が好きな人に、甘い物が好きな人。屋外で体を動かすのが好きな人、室内での活動が好きな人という個性の違いは、自律神経の個性だといえます。当然ですが、同じ人でも、年をとったり、結婚や出産などで自律神経の働き方は変わってきます。自律神経の働きを整えるということはこのような事を踏まえてどのように整体してゆくかということを常に考えなくてはいけません。